UjiHato Properly
目次
日本語を仮名で書表す時、如何にして語を書き分けるのか、と云ふ規則を仮名遣と云ひます。
歴史的仮名遣と呼ばれる仮名遣(ここでは単に仮名遣と云ひます)は、日本語を書き表す表記の規則の一つです。現代の一般社会で遣はれてゐる「現代かなづかい」が、現代の標準語の発音を其のまゝ書き表すと云ふ規則で成立つてゐるのに対し、仮名遣は語の音ではなく、語の意味や由来に基いて書き表すと云ふ規則で成立つてゐます。其の為、仮名遣は話し言葉の発音の変化に依らない表記の原則・合理性を持ちます。
先づ「歴史的仮名遣」と「現代かなづかい」の違ひに就いて。そして、なぜ、私が歴史的仮名遣で文章を書くか、と云ふ事に就いてを書きます。最後のはうに、実際に仮名遣を実践したい、と云ふ方の為に役立つかも知れない、仮名遣の簡単な規則を、当サイトのイメージキャラクターの会話文を交へ乍ら紹介します。外のウジハトのコーナーと同様に、会話に親しみ乍ら読んで下さればと思ひます。
本来の正しい仮名遣とは、如何なるものでせうか。「現代かなづかい」にも一部、仮名遣の規則が残されてゐます。語を意味に基き書き表すと云ふ日本語の書き方は、ごく普遍的で身近なものです。以下に解り易い例を示します。
- Q
- こんにちわ。手紙おポストえ!
- A
- こんにちわ?
- こんにちはです…
- 手紙おポストえ?
- 手紙をポストへです…
「現代かなづかい」でも、「こんにちわ」ではなく「こんにちは」と書きます。「手紙おポストえ」ではなく「手紙をポストへ」と書きます。上記の会話で間違ひが解ると思ひます。発音のまま「わたしわ」ではなく、「わたしは」と書きますが、これはなぜでせうか。仮令「わ・え・お」と発音したとしても、其れが語の意味として助詞を示してゐるのであれば、「は・へ・を」で書き表す──さう云ふ本来の正しい仮名遣の規則が「現代かなづかい」にも残されてゐるからです。
漢字の音をどのやうに仮名で書くか、と云ふ規則は「字音仮名遣」と云ひます。「思ふ」「でせう」などの「歴史的仮名遣」とは区別して考へます。字音仮名遣では「遠方(ゑんぱう)」「学校(がくかう)」などと音を仮名で書き表します。之は、大変ややこしいものに思へますが、漢字で書く言葉は、漢字で書きさへすれば、覚えなくても特に問題はありません。「現代かなづかい」にも字音仮名遣の規則が一部残つてゐます。
- Q
- 頬は「ほお」と発音しますが、「現代かなづかい」でも「ほほ」と書きますね。
- A
- 此の道を「とおる」?
- 「頬(ほほ)」と同じ要領で、「通(とお)る」を「通(とほ)る」と書きます…
- 「多い」「大きい」「遠い」は「おおい」「おおきい」「とおい」?
- 「多い」「大きい」「遠い」は、「おほい」「おほきい」「とほい」になります…
- て事は、「王様」は「おほさま?」
- 「王様」は「わうさま」と書きます。
- なんだか覚えるのがややこしいわ!
- 基本的に漢字で書けば良いのです。
- 発音通りに書いた方が解り易いのでは?
- 「現代かなづかい」でも王様は「おうさま」先生は「せんせい」と書きますよね。
- あ、実際の発音は「おおさま」「オーサマ」「せんせえ」「センセー」ですね。
- さうです。話し言葉の発音と、書き言葉の仮名は一致しなくても良いのです。
此のやうに、「現代かなづかい」であつても、決して発音通りに表記してはゐませんし、仮名遣と、其れほど大きく違ふものでもありません。日本語を発音通りに書かうといふ考へは、無意味なものです。
仮名遣は、「は・へ・を」の助詞や、上記の「ほほ」の例に限らず、語意識に基いて様々な言葉を書き分けます。発音の異なる方言や、省略語・俗語の表記に於いても有効です。
- Q
- 姫! 私をどうにでもこうにでもして下さい!
- A
- どうにでもこうにでも?
- 「こうにでも」は「かうにでも」と書きます…
「現代かなづかい」での「どうにでも、こうにでも」と云ふ言葉は、本来の仮名遣では「どうにでも、かうにでも」と表記します。「こうにでも」を、なぜ「かうにでも」と書くのか。漢字で書けば「斯うにでも」となります。「斯う」は、斯く・斯る(かく・かくある)の音便形なので、「斯う」は語に基き「かう」となるのが原則です。従つて、「どうにでも、こうにでも」は「どうにでも、かうにでも」と書くのです。
難解と言はれる鹿児島弁で「どうにでもかうにでも」と同じ意味の言葉を「現代かなづかい」で表記すると、「いけんでんこげんでん」となります。「いけんでん」の「いけ」は「如何」の発音が訛り、変化したものです。「んでん」は「にでも」の発音を省略した俗語的なものです。「如何にでも」であるから、「いけんでん」と発音する語を俗語的に「如何んでん」あるいは表意的に「如何にでも」と書いて良いと言へます。
一方、「如何んでん」に続く「こげんでん」の「こげ」は「斯う(かう)+如何(いかが)→斯如何(かう+いかが)→斯何(かが)→こげ」と俗語的な省略・統合・変化を経たものと考へられます。由来に基き、当て字で表記すると「如何んでん斯何んでん=いけんでんかげんでん」となります。方言・俗語の表音的な表記に於いても、仮名遣の原則を適用し、言葉の意味を示す事が出来ます。鹿児島弁に関しては、不思議な言葉で『ウジハト』でも取り扱つてゐます。
日本の現代社会では、標準語の発音に依存した「現代かなづかい」が一般に使はれてゐます。公的な文書では、仮名遣で表記する事は困難です。しかしながら、著作物・私的文書やインターネット上の日本語表記等で、仮名遣を実践する事は出来ます。
抑々、祖父・祖母の世代で、一般的に遣はれてゐた表記です。仮名遣で文章を読み書きする事は、決して難しい事ではありません。以下に、仮名遣で文章を読み書きする上で、特に注意すべき点──主に「現代かなづかい」との相違点を示すガイドを提供します。
- 以下の手引きは、必ずしも仮名遣の原則を網羅したものではありません。
- 動詞の四段活用・音便表記・常用語の件は、基本的な事として先に述べてゐます。
仮名遣では、以下に示すやうなアイウエの四段活用で語を書き表します。
- 「書かず/書かう/書かない」「書きます」「書く」「書け」
- 「読まず/読まう/読まない」「読みます」「読む」「読め」
- 「行かず/行かう/行かない」「行きます」「行く」「行け」
- 「言はず/言はう/言はない」「言ひます」「言ふ」「言へ」
「現代かなづかい」の「書こう・読もう」等は、「書かう・読まう」と書きます。これは助動詞「〜う」が付く語(「書かう・読まう」)が、助動詞「〜ない」が付く語(「書かない・読まない」)や助動詞「〜ず」が付く語(「書かず・読まず」)と同じく未然形だからです。未然形は未然形としてア列に統一して活用し、助動詞「〜う」「〜ない」「〜ず」等を書き分けます。
「現代かなづかい」の発音のまゝに表記してしまふと、「言」と云ふ字を遣ふ場合に、「言わない・言う・言います・言えば・言おう」となり、ア行にもワ行にも当て嵌らない五段活用になつてしまひます。四段活用は、行が移らない事が原則です。此の点で、「現代かなづかい」が日本語の原則を缺いてしまつてゐると云へます。上記の四段活用の基本原則だけで、本来の仮名遣が整然とした体系を成している事が理解し得ると思ひます。
- Q
- 姫、前から言おとしてた事が… 今すぐ言わないと眠れません。言えとご命令下さい!
- A
- 言え!
- 「言」はハ行の活用動詞なので言へです…
- 今すぐ言おう!
- 「言おう」は「言はない/言はず」と同じく未然系ですので「言はう」です…
- 言わなければ殴る!
- 「言わない」とか「言おう」と書いてア行やワ行に飛び移るのは
「山羊わ手紙お食べた」と云ふ文章と同じくらゐ見苦しいです…
- 現代国語では、此のやうに破綻した「現代かなづかい」の語の活用をアワ行五段活用等と称してゐます。莫迦な話です。
仮名遣では発音上の便宜の為に、従来の仮名の遣ひ方が変化した一部の語「下さり→下さい」を表音的に書き表します。これを音便表記と云ひます。
- 「書きたり→書いたり」「泳ぎて→泳いで」のやうに、「き」「ぎ」「し」「り」等の子音が脱落してイになるものをイ音便と云ふ。
- 「書いた・咲いた・仰いだ」などの語は「書き・咲き・仰ぎ」のイ音便である為、「現代かなづかい」と同じく其のまゝ「書いた・咲いた・仰いだ」と書く。「書ひた」「咲ゐた」等は誤り。
- 同様に、「斯う・お強う・お寒う」などの語は「斯く・お強く・お寒く」のウ音便。「お強ふ・お寒ふ」等と書くのは誤り。
- イ音便やウ音便を「ひ・ゐ」「ふ」等と書いてはならない。音便は元々の仮名の遣ひ方が「イ」や「ウ」を遣ふ語に変化した結果なのでハ行やワ行にはならない。
- 「い」「う」と発音する語が音便かどうか判断し難い場合は「強く」とか「強き・強し」と書けるかどうか確める。「強く→強う」「強き→強い」のやうな関係であれば音便だと考へる。
- 「遊んだ」「励んだ」「読んだ」など「ん」が附くものは撥音便。「現代かなづかい」と同様。
- 「だった」「あった」「言った」などは促音便。促音の「つ」は大小何方でも良い。→「だつた・あつた・言つた」
日常でよく遣ふ言葉の一例です。
- 「現代かなづかい」でも「こんにちは」「こんばんは」と書く。「こんばんわ」や「こんにちわ」と書くのは誤り。「今日(こんにち)は良いお天気ですね。」「今晩(こんばん)は月が奇麗ですね。」が略されて挨拶となつたもの。
- 「お早(はよ)う」は「お早(はや)う」原則として漢字の語幹は保存される。「早(はや)き→早(はや)い/早(はや)く→早(はや)う」
- 「有難(ありがと)うございます」は「有難(ありがた)うございます」。「おめでとうございます」は「おめでたうございます」と書く。「めでたき→めでたい/めでたく→めでたう」
- 「はぢめまして」は間違ひ。「はじめまして」
- 「ごきげんやう」も間違ひ。「ごきげんよう」(ごきげんよろしう)
- 「いらつしやゐませ」や「ござゐます」も間違ひ。「いらつしやる→いらつしやり→いらつしやい」「ござる→ござります→ございます」のやうにリの子音が脱落してイになつた音便表記である為、正しくは「いらつしやいませ」「ございます」
- Q
- 姫、おはようございます! 私は決しておかしな者ではありません。怪しい者じゃありません!
- A
- おはようございます!
- 「お早う」は「おはやう」です…
- 怪しいものじゃないんですか
- 「じゃない」は「ぢやない」と書きます…
- なるほど。ありがとうござゐます!
- 「ありがたうございます」と書きます…
- ゐらつしやひませ!
- 「いらつしやいませ」のまゝで良いです…
- おかしいなあ
- 「をかしい」と書きます…
- 「私は」とか「食卓へ行く」「ご飯を食べる」と云ふ、「は・へ・を」の助詞の遣ひ方は「現代かなづかい」にも残されてゐる。
- 注意すべきは、係助詞の「さへ」終助詞の「なう」。
- Q
- ひ、姫さえ良ければ!
- A
- 姫さえよければ、なんですか!
- 係助詞の「さへ」は、「さえ」ではなくて「さへ」と書きます…
- 続きが気になりますのう
- 終助詞の「なう」は「のう」ではなくて「なう」と書きます…
- 「春めく」「面白み」の「めく」や「み」の部分が接尾語。
- 「どれ位(くらゐ)」「高さう」「安さう」の「さう」と云ふ接尾語に注意。
- Q
- あの… これ、高そうですが、お値段はどれくらいですかね?
- A
- 何が高そうなんですか!
- 「高そう」の接尾語「そう」は「さう」と書きます…
- 豫算は、どれくらいなんですか!
- どれ「くらい」は「くらゐ」と書きます…
- 「斯(か)うして」「然(さ)うして」などの副詞に注意する。
- 接尾語の「高さう」の「さう」と、副詞の「然(さ)うして」の「さう」は区別される。
- Q
- そうか! こうやるのか!
- A
- 何が、そうか! なんですか!
- 「そうか」の「そう」は「然う」なので「さう」です…
- 何が、こうやるのか! なんですか!
- 「こうやる」の「こう」は「斯う」なので「かう」です…
- 語の意味により、受け身・自発・可能・尊敬・使役・打ち消し・過去・完了・推量・意志・希望・伝聞・様態・断定・比況・丁寧などに分類出来る。
- 「です」「ます」「みよう」「しよう」「らしい」など。
- 注意すべきは、推量の助動詞「何々のやう・やうな・やうで」と、丁寧の助動詞「です・ます」の未然形「でせ・ませ」に推量の助動詞「う」が附いた連語「でせう・ませう」及び、断定の助動詞「だ」の未然系「だら」に推量の助動詞「う」が附いた連語「だらう」。
- 意志を表す「〜する事にしよう」「やつてみよう」を「しやう・みやう」と書くのは誤り。「〜の様(やう)だ」の「やう」とは語の意味が異なる事に注意する。
- Q
- 姫はまるで花のようにお美しい。世の魔王も放っておかないでしょう。今頃お城に攻め込む作戦を練っている頃だろう。ああどうしやう!
- A
- 始めてまともに話せたようですね!
- 推定の助動詞「ように」は、「やうに」と書きます…
- いつ摩王様は現れるのでしょうか!
- 「でしょう・ましょう」は「でせう・ませう」と書きます…
- 放っておく方が可笑しいだろうに
- 「だろう」は「だらう」と書きます…
- どうしやう!
- 「〜する事にしよう・やつてみよう」は「しよう・みよう」のままで良いです…
ハ行四段
- 「違はない」「使はない」「言はない」などの、活用語尾「は(ワと発音)」に助動詞「〜ない」が附く語は、全てハ行四段活用動詞。
- 四段活用の基本に従ひ、「違ふ」「使ふ」「言ふ」などのハ行を使ふ四段活用動詞は「は」「ひ」「ふ」「へ」と変化する。
- 発音が違ふからと言つて、ア行やワ行で五段活用してはならない。
- Q
- 思えば、私は目にしみるシャンプーは使わない。なぜなら目が真赤に充血してしまうからだ。目に沁みないシャンプーを使おう
- A
- 私も使わない!
- 「使わない」ではなく「使はない」と書きます…
- 目に沁みないシャンプーを使おう!
- 「使おう」も、「使はない」と同じく、未然形(ア列)に助動詞が附いたものなので「使はう」と書きます…
- 皆目に沁みないシャンプーを使えばいいのに!
- 「使え」は「使へ」と書きます…
- 使うぞ!
- 「使う」は「使ふ」と書きます…
上一段
- ダ行の上一段「ぢ」の活用「閉ぢる」「恥ぢる」
- ハ行の上一段「ひ」の活用「強ひる」
- ヤ行の上一段「い」の活用「報いる」
- ワ行の上一段「ゐ」の活用「居(ゐ)る」「用ゐる」
- Q
- 瞳を閉じて! なんて言葉を用いて、姫に私の希望を強いるわけには参りません!
- A
- 瞳を閉じません!
- 「閉じる」ではなく、「閉ぢる」です…
- 何を強いるのですか!
- 「強いる」ではなく、「強ひる」です…
- 言葉を用いるのですか!
- 「用いる」ではなく、「用ゐる」です…
下一段
- ハ行の下一段「へ」の活用「伝へる」「答へる」「変へる」
- ヤ行の下一段「え」の活用「覚える」「癒える」「見える」「聞える」
- ワ行の下一段「ゑ」の活用「植ゑる」「飢ゑる」「据ゑる」
- Q
- 伝えたい。覚へる事は、姫の事。
- A
- 何を伝えてゐるのか解らないけど5・7・5だわ。
- 「伝える」は「伝へる」と書きます…
- 私の何を覚へると言ふんでせうか!
- 「覚へる」は「覚ゆ(ヤ行の活用)」なので「覚える」と書きます…
- 姫の事ばかりなんて、飢えてますわ!
- 「飢える」は「飢ゑる」です…
- 形容詞は終止形語尾が「い」になる語。
- 「強い」「弱い」「暑い」「寒い」
- 「美しい」「頼もしい」「可愛らしい」「清々しい」
- 連用形「く」がウ音便になる語。「美しう」「楽しう」「宜しう」「お早う」
- 「美しひ」や「強ゐ」「楽しふ」と書くのは誤り。
- Q
- 姫はいつみても可愛らしひ。しかも美しゅうございます。
- A
- 可愛らしひですか!
- 「可愛らしき」がイ音便になつたものなので「可愛らしい」と書きます…
- 美しゅうございますか!
- 「美しく」がウ音便になつたものなので「美しう」と書きます…